りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エステルハージ博士の事件簿(アヴラム・デイヴィッドスン)

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19世紀から20世紀への変わり目のころにバルカン半島中央部に存在していた帝国は、あまりにも完璧に滅亡したため、今では誰の記憶にも残っていないといいます。その「スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国」を舞台にして、法学・医学・哲学・文学・理学博士でもあるエンゲルベルト・エステルハージ博士が活躍する幻想ミステリ連作集です。

「眠れる童女、ポリー・チャームズ」 催眠術によって年をとらないまま30年も眠り続ける少女は実在していたのでしょうか。

エルサレムの宝冠または、告げ口頭」 国宝「エルサレムの宝冠」の盗難事件の犯人のプロファイリングに使われたのは、なんと骨相学でした。

「熊と暮らす老女」 辺境の地で「人熊」と呼ばれて恐れられている存在には、悲しい過去があったのです。

「神聖伏魔殿」 スラブ、トルコ、ユダヤタタール・・多くの民族が同居する帝都ベラで悪魔崇拝邪教集団が決起する!? 博士の策略が冴え渡ります。

「イギリス人魔術師ジョージ・ペンバートン・スミス卿」 「オッド」なる未知のパワーを操る謎の魔術師は、天才なのでしょうか。それとも山師にすぎないのでしょうか。

「真珠の擬母」現代に蘇ったローレライ伝説の秘密。「人熊」と似たテイストの掌編です。

「人類の夢不老不死」 純金よりも純度の高い黄金を生み出した錬金術なのでしょうか。金を売った対価は不老不死薬の探求に用いられるというのですが・・。

「夢幻泡影 その面差しは王に似て」 苦役に就いていた王と瓜二つの人物が、近い将来に帝国が完全に消え失せると予言します。

あくまでも大真面目かつ大時代的な表現で、博覧強記を振りまきながら綴られているのは、近代科学と錬金術・心霊術・魔術・民間伝承がごちゃ混ぜになった奇妙な世界。作者の仕掛けも半端じゃないですね。「不可能砲」は「キャノン砲」の誤訳・・はツボにきました。

2014/7