りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

太陽・惑星(上田岳弘)

2015年に芥川賞候補作となった「惑星」と、著者のデビュー作である「太陽」を収録した1冊です。それぞれが独立した作品であり、テーマも微妙に異なっているものの、両作品ともに「人類の進化が行き着く先」を斬新な視点から描いているのです。

 

「太陽」

「厳密に言えば、太陽は燃えているわけではない」と始まる冒頭では、太陽の核融合は質量の少なさから金(ゴールド)に至ることがないと語られます。翻って金(マネー)のためにあくせくする人類の物語は、しがない色狂いの大学教授と、デリヘル嬢に身を落したアイドル志望の女性と、アフリカで違法な赤ちゃん工場を営む男と、国連機関の調査団の動向を追っていきます。彼らの運命が交錯して生まれた9代後の子孫が、究極の錬金術を生み出して太陽を金に替え、地球を滅ぼすことになるとは知らずに・・。その前に人類は「第2形態」へと進化しているというのですが、全人類が完全な平等と不老不死を実現したという「第2形態」の実態こそが、並録されている「惑星」のテーマなのでしょう。

 

「惑星」

惑星ソラリス」に登場する「知性の海」とは、もはや独立した個体ではありません。著者は「惑星ソラリス自体の内面描写」を地球に置き換えて試行してみたとのこと。そこでは「最強人間」と「未来予測者」が、人類が「肉の海」へと至った過程を反芻しているのです。イメージは映画「MATRIX」で機会に支配された人類ですね。クライマックスが東京オリンピックでの「金メダル」なのは、著者の「金」への思い入れの深さが反映されているのでしょうか。

 

2023/8