りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

公正的戦闘規範(藤井太陽)

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この著者の作品ははじめて読んだのですが、水準の高さに驚かされました。それもそのはず、現在の日本SFクラブ会長であり、名実ともに日本を代表するSF作家なのでした。知らないということは恐ろしい・・。

「コラボレーション」
量子アルゴリズムをベースにしたネットワークが台頭してきた近未来。旧インターネットという接続先を失って無限の試行錯誤を繰り返すAIに、ちょっとした手助けをした落ちこぼれプログラマーは、世界を変えることになるのでしょうか。

「常夏の夜」
台風被害から復興中のセブ島で、量子アルゴリズムを用いたツールを入手したジャーナリストが、不思議な体験をします。量子の世界では、過去も未来も確率の範囲にすぎないのでしょうか。

「公正的戦闘規範」
スマホやドローンを用いたAI兵器がテロリストに模倣されたとき、人命は果てしなく軽くなっていくようです。AI兵器による大量殺戮を防ぐには、戦闘行為を生身の人間が行うものへと巻き戻すことが必要なのですが、それは理念では実現できません。AIを上回る性能を有する兵器を、テロリストにも提供することが必要なのです。

「第二内戦」
銃規制を法制化した合衆国から、アメリ中南部の州が独立した近未来。実際に起こってもおかしくないような設定であり、2つに分裂したアメリカの描写も楽しいのですが、中心にあるのはAIの独自の進化というテーマです。その前では、政治理念や心情的な対立などは小さく思えてしまいます。

「軌道の環」
外惑星から資源を搾取する地球への抵抗というと、SF草創期から続く王道的なテーマですね。地球と外惑星を遮断しようとする試みが、地球を崩壊させる作戦へと変わろうとしていることを知った主人公は、第三の道を選びます。

2018/6