りぼんの読書ノート

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七夜物語(川上弘美)

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舞台の設定は1977年。両親の離婚で母親と2人で暮らしているさよは、町の図書館で見つけた『七夜物語』という不思議な本に誘われ、同級生の仄田くんと共に「夜の世界」へと入り込んでいきます。そこは大ネズミのグリクレルや影のミエルが跋扈し、「モノ」たちが生命を持ち始め、結婚前の両親が登場し、美しすぎる子供たちや醜すぎる子供たちが登場し、光と影が攻撃を仕掛けてくる不思議な世界だったのです。

古典的ファンタジーの骨格を保ちながら、著者が描き出していくのは、欧米的な善悪対立の構図ではありません。むしろ単純な二元論に陥りがちな安易さを否定し、既成概念のない世界での行動規範を自分で考えていくことが求められていくのです。そして最後には自分自身との闘いが待っています。

著者唯一の本格長編ファンタジーです。テーマは魅力的であり、展開もよくできているのですが、正直言ってそれほどおもしろくありませんでした。ファンタジー世界の道具立てがそれほど魅力的ではなかったからでしょうか。では、どうあれば良かったのかという問いには、答えを持ち合わせてはいないのですが。

むしろ「1977年の現実世界」のほうが楽しく読めました。当時の日本が抱えていた貧困、格差、社会の未熟さなどの問題が、子供たちの視点から透けて見えてくるのです。子供たちにとっては、「ルールのない夜の世界」も、「ルールに縛られた大人の世界」も、ともに理解を越えた不思議な世界なのでしょう。だからこそ、夜の世界での冒険が忘却の底に沈んでも大人の世界に入って行く力になるという構図が、ファンタジーの王道であり続けているのです。

2018/6