りぼんの読書ノート

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図書館島(ソフィア・サマター)

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不思議な雰囲気を湛えたハイ・ファンタジーです。著者はトールキンのように、本書の中で展開される世界を地名・人名・用語のみならず、歴史や伝承に至るまで丁寧に作り上げており、巻末に用語集までついているほど。

複数の国を統合したオロンドリア帝国の辺境に位置する紅茶諸島には、文字が存在していません。大農園の跡取り息子ジェヴィックは、首都ベインから招かれた家庭教師ルンレによって文字を学び、書物を愛する繊細な青年へと成長していきます。やがて父が死去。ベインに向かったジェヴィックは、航海中に不治の病に罹った娘ジサヴェトと出会います。やがて「天使」として彼の前に繰り返し現れるようになる少女の霊は、華やかな都会で無数の書物に出会って喜ぶ青年の運命を一変させてしまうのでした。

オロンドリアでは、天使を信奉する快楽主義的な「女神の信徒」たちと、理性を重んじる新興の「石の教団」とが激しく争っていたのです。女神の信徒は文字を用いない一方で、石の教団が文字の力を信奉しているという点がポイントなのでしょう。書物に惹かれながら天使と交霊する青年は、両者の対立構図を変革することになるのでしょうか。やがてジェヴィックは天使に対し、亡くなった少女の物語「ヴァロン」を書き上げることを約束するのですが・・。

言語と書物にまつわるテーマを秘めた波乱万丈の物語は、思いもよらなかった静謐な着地点に向かいます。結局のところ、文字で記された物語と、口伝で伝えられる物語は同じものなのでしょう。

2018/12