りぼんの読書ノート

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荒城に白百合ありて(須賀しのぶ)

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ハイファンタジー系のラノベ出身で、これまで戦前の日本やドイツを舞台とする作品が多い著者ですが、両親は会津出身だそうです。「会津史観」が刷り込まれているので、逆に「幕末の会津のことは書きにくい」そうですが、本書の原案は「トリスタンとイゾルデ」だとのこと。いったいどのような物語に仕上がったのでしょう。 

 

安政の大地震の夜、昌平坂学問所で学ぶ薩摩藩士の岡元伊織と、江戸城会津上屋敷内で育った10歳の少女・鏡子は、運命の出会いを果たします。武士という生き方に馴染めずにいた青年と、世界が終るかのような大火に歓喜を感じてしまった少女は、互いの中に自分と同じ何かを見出して惹かれあったのです。 

 

もちろん時代は、立場の異なる2人を引き離します。攘夷や倒幕に逸る同僚たちを冷静に眺めながらも薩摩軍の参謀となる伊織。「妻や母という入れ物に入ったほうが楽に生きられる」として会津藩士の妻となる鏡子。やがて2人が再会したのは、会津城下が戦火に包まれた時だったのです。互いに惹かれていたことをギリギリまで認めようとしなかった2人は、まさしく「トシルタンとイゾルデ」ですね。 

 

幕末の会津の物語なので、数年前の大河ドラマ「八重の桜」に登場した女性たちも登場します。とりわけ鏡子に強い影響を与えた中野竹子は後に婦女隊を率いる強い女性で、著者がこれまで描いてきたヒロイン像に近いのです。綾瀬はるかさんが演じた山本八重も似たような人物ですね。著者が、全く異なるタイプの女性を主人公としたのは「会津史観」から距離を取るためだったのでしょうか。それとも新境地? 

 

2020/7