りぼんの読書ノート

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エンタングル:ガール(高島雄哉)

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2006年にTV放映され、その後も何作か映画化されたアニメ「ゼーガペイン」のスピンオフ作品とのことですが、本編のことを知らずに本書を読んだ次第です。でもそれでOKですね。本書を解説した声優の花澤香菜さんは、そのほうが度肝を抜かれるはずでうらやましい」とすら述べているのですから。 

 

舞台は近未来の舞浜。なぜか1丁目が存在しないのですが、その理由はすぐにわかりました。TDLは必要ないというか、あってはいけないのでしょう。映画監督志望で高校1年生のリョーコは、映画研究部の仲間たちとコンテスト用の作品制作に取り掛かりますが、なぜか部長は「きみは映画監督にはなれない」と不吉な予言を告げるのです。それだけでなく彼女たちは撮影を続ける中で、あちこちで奇妙な齟齬に出会います。それは舞浜という町自体に隠された、世界のほころびだったのですが・・。 

 

本編に詳しい人なら、主人公のリョーコや、幼馴染のキョウや、正体不明でミステリアスなシズノという名前だけで本編との関係を理解できるのでしょう。荒廃したゲーム世界こそが現実であり、舞浜のほうが量子サーバー内の仮想空間であるという仕掛けには、手探りで進んでいったほうが楽しめそうです。。『エンダーのゲーム』に「マトリックス」を掛け合わせて、ウィリアム・ギブゾン的な処理を施した世界観ですが、そこに気付いた時にはやはり度肝を抜かれます。しかも円城塔『エピローグ』の「イザナミ・システム」より10年近くも早い。 

 

とはいえ、いくら著者が劇場版「ゼーガペイン」のSF考証を担当したハードSF作家とはいえ、小説の面白さは世界観だけでは成り立ちません。理系少女のアマネや、文芸部のチホや、ピアニストのシンスケという、初出のキャラたちもしっかり描かれ、ストーリーもしっかりしているので本書が独立して楽しめる作品に仕上がっているのでしょう。 

 

2020/6