りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

翡翠城市(フォンダ・リー)

f:id:wakiabc:20200525141251j:plain

緑色に輝く美しい翡翠は、まるで逆クリプトナイト。本書は、まるで香港や台湾を思わせる架空のケコン島を舞台にして、翡翠を身に着けることで異能力を発揮する戦士グリーンボーンたちが活躍するSFアクションです。 

 

とはいえストーリーラインはまるで「ゴッドファーザー」的な、家族関係を重視するマフィア物語。世界大戦の時代に島の独立を勝ち取ったグリーンボーン戦士たちは代を重ねる中で分裂してしまい、「無峰会」を仕切るコール家と「山岳会」を仕切るアイト家に分かれて抗争を繰り広げています。かつて「ケコンの炎」と呼ばれたカリスマのセンは既に老い、現在の無峰会の「柱」は思慮深い長孫のラン。その片腕として戦闘組織を率いる「角」は、乱暴者だが人望のある弟のヒロ。かつては組織の戦略を担う「日和見」の座を継ぐことが期待されていた聡明な妹のシェイは、事情あって組織を離れています。 

 

そこにアイト家の女性リーダー・マダが、戦士組織の統一をもくろんで果敢な抗争を仕掛けてくるのですが、彼女には翡翠の輸出を核として島の発展に結び付けていくという野望があったのです。しかしそれは島にとって明るい未来なのでしょうか。山岳会が仕組んだ罠によって、無峰会は窮地に陥ってしまうのですが・・。 

 

ゴッドファーザー」と異なるのは、女性の活躍が目立つことですね。悪役を務めるマダの冷酷ぶりも、妹のシェイが颯爽と組織に戻ってくる場面も圧巻です。さらに翡翠を操る力を持たないながらも恋人ヒロの力になりたいと願うウェイも、意外な活躍を見せてくれます。スタンフォード大学でMBAを取得して経営コンサルタントを務めたカルガリー生まれの才女ながら、マフィア・ヤクザ・カンフーのドキュメンタリーやフィクションを好むという著者だからこそ書けた作品なのでしょう。 

 

コール島の人々が島外からやってくる脅威と対峙するという続編もあるとのこと。コール家の切り札的な役割を果たしながらも、翡翠の力に背を向けた若い従弟のアンディがどのような生き方を選択するのかも気になります。「新☆ハヤカワSFシリーズ」で責任もって発刊してくれるんでしょうね。 

 

2020/6