りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ひとめあなたに…(新井素子)

イメージ 1

山本弘さんの「ビブリオバトルシリーズ」の世界が終わる前に』で、SF好きの主人公・空が紹介していた作品です。この作品が未読だったのは、SFの面白さを理解した頃に「この著者の作品はSFではない」と思い込んでいたせいでしょう。

もちろん、古典的な意味でのSFではありません。「7日後に隕石が衝突して地球が滅亡する」というプロットを除けば、本書は「世界が終る前に、ひとめあなたに会いたい」というラブロマンスなのです。これがSFなら、伊坂幸太郎さんの終末のフールもSFになってしまいます。いや、どちらもSFでも構わないのですが。

彫刻家を目指していたものの手術で右腕を失うことになり、生きがいを失った恋人の郎から別れを告げられた圭子。そんな時に「地球が一週間で滅亡する」とニュースで知り、最後の時を彼と一緒に過ごそうと決意するのですが、もう交通機関も動いていません。彼女は、自分が住む江古田から、郎の家がある鎌倉ま走り出します。本書の通りに、世田谷、目黒、新横浜、西鎌倉経由で向かうと58km。

途中で彼女が出会うのは、不実の夫を殺害した由利子。受験勉強以外の生きがいがなかった高校生の真理。夢と現実の区別がつかない少女の智子。おなかの赤ちゃんだけは助けたいと必死になる若い妊婦の恭子。もはや誰もが普通ではありません。そんな中、「何度も狂うチャンスがあったのに、どうしても郎に会いたくて狂えなかった」圭子は、ついに鎌倉にたどり着くのです。

著者が20歳の時に書いた、みずみずしい作品です。やはりSFではないとは思うのですが・・。

2018/7