りぼんの読書ノート

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トラットリア・ラファーノ(上田早夕里)

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「オーシャン・クロニクルシリーズ」をはじめとするハードSFの著者が、このような作品を書いているとは知りませんでした。本書は、友情と恋愛の間で揺れ動く男女の心の機微を捉えた作品なのです。 

 

兄と妹が中心になって開いている、神戸・元町のイタリア料理店「ラファーノ」。そこでホールが鳴りをしている主人公の和樹は、「どこかで世界が分岐していて、もうひとつの未来があったのではないか」との感覚を抱きながら生きています。しかし本書が「パラレルワールドSF」ではないかとの期待は裏切られます。 

 

ある日、高校の同窓生の優奈が偶然に来店。次いで当時のテニス仲間で親友であった伸幸も来店するようになりますが、2人は婚約しているというのです。しかも伸幸は、優奈はずっと和樹を好きだったのではないかというのです。これは結婚を控えた若い男女のマリッジブルーなのでしょうか。優奈は「和樹と一緒に神戸の異人館に行きたい」と言うのですが・・。 

 

結局のところ3人の関係は三角関係未満で終わるのですが、自分の心を見つめなおした和樹の心は決まったようです。彼はレストランのシェフへの道を歩んでいくのでしょう。和樹は言うのです。「世界の分岐などはじめからなかった」と。そして自分も友人も「物を壊していく強い力を持つ捩れた感情など持っていなくて本当によかった」と。その背景には、心も身体も満たしてくれる美味しい料理の効果もあったのでしょう。 

 

上田さんに『ラ・パティスリー』、『ショコラティエの勲章』、『菓子フェスの庭』など「洋菓子シリーズ」なる作品群もあることを初めて知りました。でも著者に期待しているのは、オリジナリティの強いハードSFです。 

 

2020/3