りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エレジーは流れない(三浦しをん)

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物語の舞台となっている「餅湯温泉」は、明らかに熱海温泉ですね。海と山に囲まれて新幹線は止まるものの、団体旅行客で賑わっていたかつての面影はなく、今はちょっと寂れてしまった温泉町。ここで暮らしている高校2年生の穂積怜には父親がいない代わりに、冴えない土産屋を営む寿絵と、月に1度やってくる会社社長の伊都子という2人の母親がいたのです。

 

彼の家庭の事情はラスト近くで明らかになりますが、それが本書の主題ではありません。ささやかな事件も起こり、ちょっとした冒険もあるものの、それも主題というわけではなさそうです。隣近所の付き合いが残る町で、幼馴染たちと過ごす青春時代の日常生活が、いかにかけがえのないものなのか。そんなことが行間から浮かんでくる作品です。

 

のんびりした「グーニーズ」のような作品という一言で済んでしまいそうなので、怜の友人たちをメモしておきましょう。喫茶店の息子で地味な美術部員の成田丸山和樹。干物店の息子でなぜか彼女がいる佐藤竜人。自然児のサッカー部員の森川新平。元湯町の旅館の跡取りで大人の風格がある藤島翔太。竜人とバカップル関係にある秋野愛美。なお、本書を読むと熱海城を訪問する意欲が失われかねないことを申し添えておきます。実際の施設や展示は、本書に描かれたものとは異なるようですが。

 

2021/12