りぼんの読書ノート

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あまねく神竜住まう国(荻原規子)

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「勾玉シリーズ」の第5巻である本書は、2005年に出版された前巻『風神秘抄』から直接続く物語。2015年に出版されていたのを見過ごしていました。10年ぶりですからほとんど忘れていたのです。 

 

本書の主人公は、伊豆に配流された15歳の源頼朝。かつて笛の名手・草十郎と妻の舞姫・糸世によって命をこの世に繋ぎとめられた少年ですが、生きる希望も失って孤独な暮らしを続けています。伊豆を支配する伊藤祐親によって殺害されようとした時に、再び彼の前に現れたのが草十郎と糸世でした。 

 

伊藤氏配下の地方武士である北条氏時政に身柄を預けられ、蛭が小島での幽閉生活が始まったのですが、占師から不思議な託宣を受けることになります。頼朝の身体には二匹の蛇が巣食っており、これを昇華させるには土地神である竜と対峙しなくてはならないと。そのためには土地の霊山である走湯権現に向かわなくてはならないと。かくして一行は熱海へと向かうのですが・・。 

 

著者は本書の執筆に際して、伊豆山神社に伝わり二頭の竜の縁起を参考にしたとのことです。しかし日本全土の地下には生きた竜がいるとの想いから、タイトルからあえて「伊豆」の地名を外したとのこと。この心境に至った背景に東日本大震災があったであろうことは、造像に難くありません。 

 

本書には後に頼朝の妻となる北条政子も登場しますが、10歳年下ですからこの時わずか5歳。まで恋愛の対象にはなりませんね。それよりも前巻でも重要な役割を果たした、頼朝の姉・万寿姫の霊が大蛇の化身となって再登場。やはり彼女がキーパーソンだったのですね。既に神世は遠くなり、本書にも勾玉は登場しませんが、続編を期待したいものです。今度は見過ごししませんので。 

 

2019/12