先月の『回復する人間(ハンガン)』に続いて、現代韓国の若手女流作家の作品集を読みました。隣国から見ても問題の多そうな国ですから、若者たちが不条理感を抱くのも無理はありません。カフカにも例えられる著者の作品ですが、ところどころに韓国らしさも現れます。
「モンスーン」
団地が工事で停電した夜にバーに出かけた夫は、休職中の妻が勤める科学館の館長と出会います。気まずい会話の傍らで夫は、子供が死んだ夜に妻が取っていた不審な行動のことを思い出すのでした。巨大なモンスーンが進行方向を変える瞬間をあらかじめ知ることができないように、夫婦の抱える闇もまた気づいた時には手遅れなのです。
「観光バスに乗られますか?」
上司から頼まれた重い荷物を運ぶ2人の会社員は、荷物の中身も届け先のことも知りません。理不尽な指示にも盲目的に従うことは美徳なのでしょうか。
「ウサギの墓」
男が派遣されてきた都市では、かつてペットとしてブームになったウサギが捨てられて野生化しているとのこと。男に拾われた後に再度捨てられることになったウサギと、目的も手法も不明な仕事を孤独に遂行する男の姿が重なっていきます。
「散策」
赴任先であてがわれた住まいは、ほとんど森との境界線に建っていました。ある日森を散策した男は、自宅に近くで遭難しそうになってしまいます。意外なほど身近な所にも、危険が潜んでいるのです。
「同一の昼食」
ある大学でコピーを取る仕事をしている男は、毎日同じ電車に乗って職場に行き、同じ食堂の同じ場所で日替わりランチを食べ続けています。ある日電車で転落事故が起こるのですが、孤独な主人公の鈍感な生活に変化など起きようもありません。
「クリーム色のソファの部屋」
地方の支社からソウル本社への転勤途中で道に迷った末に、車が故障して途方に暮れた家族に悲劇が襲いかかります。しかも引越業者からは、新生活の象徴として買った新品のソファが部屋に入りきらないという連絡も入るのです。一家の生活が明るくはなることはなさそうです。
「カンヅメ工場」
退職した工場長は、終業後に何を缶に詰めていたのでしょう。ホラーっぽい作品です。
「夜の求愛」
共通の知人が死の床にあると知らされた花屋の男は、葬儀のための花輪の注文を受けて葬儀場に届けたものの、知人はまだ亡くならなっていません。知人の死をじりじりと待つという異様な時間の中で、男は女に電話をかけるのですが・・。
「少年易老」
友情で結ばれた少年たちも、やがて不条理な世界に出ていかなくてはなりません。オリジナルは少年の1人が死を迎える話だったものの、セウォル号事件を受けて結末を変えたとのこと。「誰も殺したくなかったから」だそうです。
2019/12