りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

平家物語2「名将の悲劇」(古川日出男訳)日本文学全集9

イメージ 1

源平合戦」の描写こそが、平家物語が「軍記物」であるゆえんです。琵琶法師の撥が激しくかき鳴らされていく中で、古川さんの新訳は疾走感を増していきます。

清盛死後の「7の巻」は、「倶利伽羅峠の戦い」から始まります。粗暴ながら戦いにはめっぽう強い木曽義仲が、平維盛・忠度の率いる10万の大軍を倶利伽羅峠の谷底へと追い落とした夜襲は、平氏一門を絶望の底に叩き込みました。義仲が比叡山を味方につけて上洛するとの噂だけで平氏の天下は崩壊し、安徳天皇を奉じて都落ち。四国の屋島へと逃れます。

しかし権力を握った義仲は、都で唯一の権威となった後白河法王に翻弄されるかのように、自滅への道をたどるのです。京で狼藉を繰り返して人心掌握に失敗。屋島を拠点に復権を目論む平家軍には水島の戦いで完敗。法住寺合戦に及んで後白河法皇後鳥羽天皇を幽閉するも、源頼朝が送った源範頼義経の軍勢によって宇治川の戦いで完敗し、粟津の戦いで壮絶な戦死。

そして源義経が鮮やかに登場するや、一の谷、屋島、壇の浦の戦いで平家軍を撃破。ついに平氏は滅亡に追い込まれます。しかしその義経も頼朝の不興を買って、滅びへの道をたどるのでした。義経の天才的な軍略や、それぞれの戦いでのエピソード、梶原景時との確執などは既に多くの小説やドラマで有名であり、ここで触れる必要もないでしょう。迫力ある戦闘シーンは一気読みです。

自ら陣頭に立つことなく、全国の武士を掌握して鎌倉から京をにらむ源頼朝の存在感が際立ちます。平家物語が成立した鎌倉時代中期にあっては、当然の配慮なのでしょうか、これは「源氏の物語」ではありません。義経の戦勝と頼朝の政権樹立の過程で、ひとりまたひとりと舞台を去っていく平氏一門こそが、本書の主役なのです。その点は次回で触れようと思います。

2017/8