「螺旋プロジェクト」の中世・近世篇は、平将門の乱から西南戦争まで続いた「武士の時代」を、海族と山族の対立の歴史として捉えます。千年近くもの間、国家の支配をめぐる大きな戦いが断続的に起こっていたわけですから、対立関係を描き出すのに、これほどふさわしい時代はありませんね。武士たちの戦いの真の主役とは、いったい何者だったのでしょうか。
著者は、政府軍の猛攻を逃れて洞窟にたどり着いた男に話しかける「声」の存在から物語を始めます。その「声」によると、はじめから平氏は海族で、源氏は山族だったというのです。青い目を持つ海族の系譜には平将門、平清盛、平教経、楠木正成、大内義弘、織田信長、豊臣秀吉、大塩平八郎、西郷隆盛らが、大きな耳を持つ山族の系譜には源頼朝、足利尊氏、足利義満、明智光秀、徳川家康、一橋慶喜、土方歳三らの名が並びます。彼らがそれぞれの時代で互いを仇敵として憎み合い、戦いの螺旋に巻き込まれていくことで、歴史が大きく動いてきたというのですが・・。
本書では、どの時代においても海族と山族の対立の歴史を語り継ぎ、両者の間に立って来るべき世界を指し示す長老と呼ばれる人物がいたとされています。文覚、佐々木導誉、南光坊天海(明智光秀)、坂本龍馬、土方歳三らの名前が挙げられていますが、彼らの前身は問わないようですね。海族や山族であっても、死に臨んで長老に転じた者もいるのですから。本書では明らかにしていませんが、鹿児島の城山に籠った西郷隆盛が、「声」を聴いた最後の人物となったのかもしれません。武士の時代は、ここで終わりを告げられたのでしょうから。
2021/5