りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

コイコワレ(乾ルカ)

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伊坂幸太郎さんが提唱した、「日本の歴史は海族と山族という2つの種族の抗争の中で営まれてきた」というルールのもとで綴られた企画ものの中の1冊です。本書の舞台は、敗戦間近の日本です。

 

東京から東北の田舎に集団疎開してきた小学生の中で、6年生の浜野清子は青い目を持っていたことで仲間たちから疎外され続けていました。そんな彼女が疎開先で出会ったのは、寺の養女となっていた野生少女の那須野リツ。運命の出会いを果たした2人の孤独な少女は、理由もなく互いに嫌悪しあいます。もちろんこれは「海族と山族」の宿命なのですが、2人を気にかけてくれた青年・健次郎の事故死によって2人の対立はエスカレートしていくのでした。

 

本書において決定的な役割を果たすのは、山に籠って炭焼きをしている源助老人です。捨てられていたリツを助けたという因縁もあり、リツも彼にだけは懐いていたのです。リツは源助から「本当に強い者は憎しみを相手さ向けずに、その自分の憎しみと戦う」と諭されます。一方の清子は母親から「嫌いな相手にこそ礼を尽くして親切にすることで、相手も変わっていく」と伝えられます。背後には戦争という巨悪も迫っている中で、2人の少女は自分たちの運命を変えることができるのでしょうか。

 

あらかじめ主題が定められているシリーズでは、物語が類型的になりがちなものですが、さすがに手練れの作家陣ですね。このプロジェクトの8作品のうち、これで5作を読んだわけですが、それぞれに自分の個性を生かした見事な作品ばかりで完成度の高い変奏曲を聴いている思いにさせられます。ところで本書の清子は、伊坂さんの『シーソーモンスター』の宮子の母となったようですが、どうなのでしょう。

 

2021/3