りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

蒼色の大地(薬丸岳)

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伊坂幸太郎さんの提唱で8組9人の作家陣が、古代から未来の日本を舞台にして、「あるルール」のもとに競作した企画の中の1冊です。そのルールとは、日本の歴史は海族と山族という2つの種族の抗争の中で営まれてきたというもの。著者が描き出した世界の舞台は、明治維新後の19世紀末の瀬戸内海でした。

 

かつて幼馴染でありながら何となく反りが合わなかった2人の運命が、再び交差しようとしています。海軍に入った新太郎は呉鎮守府に配属となり、孤児となって虐げられて育った灯は瀬戸内海を根城とする海賊の一味となっていたのです。しかも新太郎の妹である鈴は、ずっと思いを馳せていた灯を探して、謎の孤島にたどりついていたのです。

 

このシリーズも3冊目になるので、耳の大きな新太郎と鈴の兄妹が山族であり、青い瞳を持つ灯が海族であることは、はじめからわかっています。この時代の山族の中心人物は、なぜか呉鎮守府長官となっていた山神であり、海族の中心人物は海賊の首領である女性の海龍です。なぜか山神と海龍はかつて愛し合っていたようおなのですが、現在は互いを宿敵と思い定めています。山神は職権を濫用し、英国から入手した2隻の新鋭艦をもって海賊の根城と目される鬼仙島襲撃を目論むのですが・・。

 

灯と鈴は愛をまっとうできるのでしょうか。そして上官の違法な襲撃を止めようとする新太郎を含む3人は、争いのない世界を築くことができるのでしょうか。立場の違いを超えて愛し合う男女と、彼らの周囲で起こる友情、恋慕、嫉妬、裏切り・・というと、どうしてもロミジュリになってしまうのですが、そこが作家としての力量が問われる部分。この作品の場合はちょっと無理筋に思えてしまったのですが、いかがでしょうか。

 

2021/2