りぼんの読書ノート

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狼少女たちの聖ルーシー寮(カレン・ラッセル)

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1981年生まれの若い作家による奇妙で残酷なダーク・ファンタジーは、妙に懐かしさも感じる作品集になっています。ジュディ・バドニッツや、ジュリー・オリンジャーとも共通するものも感じます。

「アヴァ、ワニと格闘する」
ワニ園のスターだった母親が亡くなってから祖父の家に預けられている少女が、幽霊と駆け落ちしようとする姉を力づくで引き留めます。少女が戦った相手は、孤独へと向かっていく自分の運命でした。

睡眠障害者のためのZ.Zのぐっすりキャンプ」
あらゆるタイプの睡眠障害を持つ子供たちが集まるキャンプで、「過去の予知夢」という障害の持ち主が自分だけと知ってしまった少年は、孤独を感じてしまいます。

「星座観察者の夏休みの犯罪記録」
いじめっ子から、ウミガメの子供を砂浜で迷わせるという「連邦法違反」の大罪に加わるように強制された少年は、もちろん誰にも打ち明けられません。

「西に向かう子どもたちの回想録」
とてつもない苦難が待ち受けているはずなのに、家族を連れて憧れの西部に向かおうとする父親のことを、誰も止められません。父親はミノタウロスなのです。でも、自分ひとりで牛車を曳き続けるのは無理ですよね。

「海のうえ」
海上老人ホームで余生をすごす老人は、重罪を犯して裁判所からホームの慰問を命じられた不良少女に恋してしまいます。この「最後の初恋」に走った老人は、アヴァの祖父でした。

「事件ナンバー00/422の概要」
父親が去った後で居場所を失った少年が、遭難した雪山で、海賊だった祖先が氷河に隠した宝物を発見します。しかし救出の手は来るのでしょうか。

「狼少女たちの聖ルーシー寮」
スペイン人の修道女のもとで「人間になる教育」を受けている狼少女たちは、何を得て何を失うことになるのでしょう。いち早く人間の少女に移行していく娘がいる一方で、野生の本能に抗えない娘もいるのです。しかし、いったん人間を目指し始めたら、もう元の世界には戻れないのです。ダーク・ファンタジーですが、モチーフになっているのは、宣教師によって白人と同じ教育を受けさせられる先住民族といったところでしょうか。

他には、妹を失った兄弟が喪失感と向き合う「オリビア探し」、病気の母を放置して雪の宮殿へと向かう父親に抵抗する「イエティ婦人と人工雪の宮殿」、思春期の少女の切実な祈りが巻貝の中に閉じ込められてしまう「貝殻の街」が収録されています。

2016/12