りぼんの読書ノート

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宿神 第4巻(夢枕獏)

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西行を主役に据えた全4巻の大河伝奇小説の完結編です。自然界に存在する「ものの気配=宿神」を感知できる能力を有する西行が、平安という時代の終わりを看取って、自らもまた桜の季節に永眠するまでが描かれていきます。

前巻で描かれた保元の乱以降、時代の変化には加速度がついていきます。崇徳上皇流罪にした後白河天皇の親政に於いて政治の実権を握った信西は、藤原信頼源義朝のクーデターで討たれ、彼らもまた平清盛に討たれるという平治の乱平氏政権が成立。しかし平氏もまた、伊豆で挙兵した源頼朝によって追い詰められていくのです。

そんな中で西行の長年の親友であった清盛は病死。死に臨んで意外な罪を告白する清盛に、西行は辞世の句をおくります。「ひとつ身をあまたに風の吹き去りて炎になすも悲しかりけり」と。

待賢門院璋子、堀川局、鳥羽上皇崇徳天皇平清盛源義経、そして散りゆく桜の花。「滅びゆくものしか愛せぬのだな」という西行ですが、彼もまた欲や愛着からは逃れられません。それでも最後に待賢門院の霊を呼び出そうとして、思いとどまるのです。ただそこにあるだけという「宿の神」に、全てが回帰していくようなラストでした。

陰陽師シリーズや、沙門空海唐の国にて鬼と宴すなどの作品と、緩やかに結びついている作品です。

2017/5