りぼんの読書ノート

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平家物語1「驕る平家は久しからず」(古川日出男訳)日本文学全集9

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古川日出男さんによる「平家物語」全訳は905ページもある「大河物語」で、内容も濃いので3回に分けて記そうと思います。まずは「1の巻」から「6の巻」の「清盛の死」まで。

冒頭の「祇園精舎」で平家物語を貫くテーマが「無常観」であることが示されていることは、誰でも知っている通りですね。従って平氏台頭の過程は、清盛の父である忠盛が殿上で機転を示したこと以外は、ほとんど触れられません。そのかわりに、国土の半分を知行して「平氏にあらずば人にあらず」とまで呼ばれた平氏一門の横暴が執拗に綴られていきます。

300人の童子による密告隊の結成、白拍子祇王に対する非情な措置。「二代の后」とされた藤原公能の娘の悲哀。清盛の孫・資盛の摂関家への狼藉。鹿ケ谷の密談に加わった俊寛らの鬼界ケ島への流刑。平氏一門で唯一の人格者であった嫡子・重盛が病死した後は、清盛と次男・宗盛の暴走は加速され、娘の健礼門院徳子が生んだ安徳天皇の幼年即位と後白河法皇の幽閉、強引な福原遷都と南都炎上でピークに達します。

そして反平氏勢力が生まれます。以仁親王源頼政の反乱は容易に制圧されたものの、後白河法皇から「平家追討の院宣」を受けた源頼朝が関東で挙兵。重盛の嫡男・維盛らが率いた追討軍は、「富士川の戦い」で水鳥の羽音に驚いて大敗。木曽の源義仲も挙兵し、時代が源氏へと移り変わる気配を見せ始めたな中で、清盛が病死。

この瞬間の新訳が凄まじい。「悶絶死をなされました。清盛公は」との敬語体の文章が、「死んだ。清盛は」とぶっきらぼうに繰り返されるのです。まさに、世の中の価値観が根本的にひっくり返った瞬間です。「善行や、善き前世や、善き出自もあった」と続く数章は、天下人への追悼には程遠いものに感じられます。

2017/8