1155年に近衛天皇が17歳の若さで亡くなると、鳥羽法皇の第4皇子で待賢門院を母に持つ後白河天皇が即位。実子・重仁親王を即位させて院政を敷こうとたくらんでいた崇徳上皇の思惑をくじきます。直後に鳥羽法皇が病死すると、異母兄弟である天皇と上皇の対立が激化。そこに藤原氏内部の権力闘争が絡んで、兄の忠通は天皇に、弟の頼長が上皇についたことが戦乱の直接原因。
結果は歴史が示している通りです。源義朝と平清盛を味方につけた後白河天皇・藤原忠通派が勝利して、崇徳上皇は讃岐に流罪、藤原頼長は合戦で負った傷のため南都で死去。源義朝は父・為義らを、平清盛は叔父・忠正らを処刑することになります。従来は朝廷内で決着がつけられていた権力闘争に武力が用いられたことが、時代を大きく動かしてしまいました。
西行は、親友・清盛の野心を聞いたり、敗残の崇徳上皇を見舞ったりしますが、時代の動きとは無関係なところで生きています。この巻では「宿神」の影も薄いのですが、時代が戦乱へと向かう中では、人間の行為そのものが「宿神」と同一化されてしまうのかもしれません。
ところで保元の乱の直前に清盛と遭遇した、かつての遠藤盛遠こと文覚上人が、興味深いことを語っています。「欲を手なずけて野心のために使っているのが清盛。欲を手なずけ損ねて狂ったのが文覚。欲をそのまま花として咲かせようという不可能事を試みているのは西行」だと。3人とも強烈な欲の持ち主だというのです。物語は、平治の乱から源平盛衰へと向かっていきます。
2017/5