りぼんの読書ノート

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ともえ(諸田玲子)

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芭蕉が葬られたのは、大津・義仲寺の木曽義仲の墓の隣であったこと。大津には芭蕉から「幻住庵記」を形見として送られた女流俳人・智月尼が住んでいたこと。この2つの史実から、2人の関係を晩年の無償の愛情物語に仕立てあげ、義仲の妻であった巴御前と智月尼を深く関係づけた作品です。

木曽義仲の妻とされる巴御前は、実在した人物であるのかどうかもよくわかっていないようです。『平家物語』では、宇治川の戦いで敗れた義仲に最後まで従った女武者であるとされ、『源平盛衰記』ではその後、源頼朝に召されて和田義盛の妻となり、和田合戦で義盛が敗死した後は、出家して義仲、義盛の菩提を弔う晩年をすごしたと記述されています。

本書の物語は、義仲寺の巴の墓前に合掌している智月尼を見た芭蕉が、巴の再来かと驚いた場面から始まります。10歳も年上の美しい尼に恋した芭蕉は、2人の関係を「姉弟のようなもの」というカムフラージュにくるんで愛を育んだとされますが、「姉弟」というモチーフが本書の中で何重にも重ねられていきます。

巴と義仲、智月尼と彼女の弟とされる乙州。智月尼には反幕府的な言動をとっていたために毒殺されたとの噂もある後光明天皇に仕えた過去があり、乙州の誕生秘話も描かれますが、全ては智月尼と芭蕉の関係を補強するためのエピソードのようです。そして能の名曲「巴」を思わせる幽玄な存在まで登場させるに至ります。

晩年にさしかかった男女の美しい情愛を描いた作品ですが、残念なことにあまり心に響いてきませんでした。智月尼を巴の再来と思わせるための設定に、理屈を重ねすぎたように思えてしまったのです。

2018/3