りぼんの読書ノート

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バラ色の未来(真山仁)

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「総理大臣官邸にプラスチックのコインを投げつけていたホームレスは、IRを誘致し町おこしをと気炎を上げ、総理の指南役とまで呼ばれていた元名物町長・鈴木一郎だった。日本初のIRは、5年前、土壇場で総理大臣・松田勉のお膝元に持って行かれていた。彼を破滅に追いやった誘致失敗の裏に何があったのか!?東西新聞社の編集局次長・結城洋子は、特別取材班を組み、IRやカジノの問題を徹底的に追及しようとするが・・」という紹介文を読むだけで、だいたいのストーリーはわかってしまいますね。

カジノを中核とした「統合型リゾート(IR)実施法案」が今国会で決まろうとしており、地方創生の願いを込めた各地の自治体・経済界も数多く誘致に乗り出しています。しかしIRが「バラ色の未来」を約束するものなのか。海外の大手IR運営会社の日本進出構想に踊らされているだけではないのか。ギャンブル依存症対策は十分なのか。こういった疑問は多くの人が持っているものと思います。しかも、巨額の利権が絡む立地が政治主導で決まろうとしているのですから、かなりドロドロとした世界もあるのでしょう。

本書の主役は、結城洋子をはじめとする新聞社の取材犯です。彼女たちは、5年前のIR誘致の背景にあった裏事情を探り、ギャンブル依存症増加の実態を暴き、いままた東京にIRを誘致しようとする動きをけん制し、さらには総理の責任に迫ろうとするものの、そこに大きな壁が立ちふさがることは言うまでもありません。

一昔前の小説なら、彼女たちの行動は社会への警鐘を鳴らす「善」とされるのでしょう。しかし5年前にIR構想を持ち上げたのも、IR誘致反対の方針を掲げた前東京都知事を経費問題で辞職に追い込んだのもマスコミであることも、同時に描かれます。では今回の取材は、何をもたらすことになるのでしょう。「大局的視点を待つことなく読者の求める記事を書く」というマスコミの姿勢も、問題にされているようです。ラストで結城が自分たちを「まばゆい光の外にあるものを探るコウモリ」に例えていることが、一種の開き直りに思えてなりません。どの世界においても必要なものは「自浄能力」であり、これが一番難しいのです。

2018/3