りぼんの読書ノート

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ヴィンター家の兄弟(レン・デイトン)

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著者は、アイロニーに満ちた冷戦時代のスパイ3部作『ベルリン・ゲーム』『メキシコ・セット』『ベルリン・マッチ』を書き上げる中で本書を執筆したそうです。3部作の主人公バーナード・サムソンの父親や、上司のレンセレイヤーも若い姿で登場しますが、本書の中では脇役にすぎません。ここでの主題は、ナチス時代に生きたドイツ人兄弟の悲劇です。

ベルリンの富裕な銀行家の息子であるヴィンター兄弟は、若くして第一次世界大戦に従軍します。兄のペーターは飛行船隊乗組員として、弟のパウリは陸軍歩兵として。しかし過酷な戦争が終わった時には、彼らが忠誠を誓った皇帝は退位し、ドイツ帝国は崩壊。革命と暴動とインフレを背景にファシズムが台頭していく中で、2人の進路は離れていきます。兄はユダヤアメリカ人の妻を娶って父の事業を継ぎ、弟はゲシュタポの弁護士に。

それだけでは済みません。ナチに逮捕された妻の釈放を求めるためにアメリカに渡った兄は、第二次世界大戦の勃発によって帰国の手段を失い、ナチを倒すためにはドイツ軍を破る必要があると覚悟して、連合軍情報部の連絡員となる道を選びます。一方で、ナチの政権奪取の過程で優れたアイデアを提供した弟は、ますますナチに重用されていくのです。そしてドイツ敗戦の日に、敵同士として向かい合う2人は・・。

ナチス時代における歴史と個人の関わりを描いた小説の常として、本書もなかなかに重厚です。この「時代」を背景にして、著者の優れた冷戦時代のスパイ小説が出来あがっていくんですね。スパイ「3部作」を読み返してみたくなりました。未読の「新3部作」と「新々3部作」も。^^

2011/6