りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

世界が終わってしまったあとの世界で(ニック・ハーカウェイ)

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ついに起こった最終戦争は、暗い情念を実体化する「非現実の素」を振りまいてしまいました。かろうじて生き残った人類は、「素」を無力化する物質の供給パイプに囲まれたゾーンで細々と暮らしています。その外側には何が棲んでいるのか、わかったものではありません。

重要なパイプが大火災に襲われたため、主人公の「ぼく」が、親友のゴンゾーらとともに、世界を救うべく消火活動に赴くというのが第1章。ところが第2章以降では最終戦争前の「ぼく」の成長過程が、主題を見失いかねないほどに、延々と描かれていきます。何をしてもトップの親友ゴンゾーに対して、ナンバーツー的な存在であることの自覚。拳法の老師との出会い。大学進学、セックス、政治、その他もろもろ。この中には、最後になって効いてくるエピソードもあるのですが・・。

しかし、途中でやめてしまってはいけません。終盤の物語は、怒涛の展開であるだけでなく、感動すら呼び起こしてしまうのですから。「素」から実体化された人間は、本来の人間と何が違うのか。なぜ「ぼく」の物語には、ゴンゾーの思い出がぎっしり詰まっていたのか。「パイプ」が象徴するものは何なのか。こんな世界の中でも、許されてはいけないことは何なのか。

結局本書は、さまざまな仕掛けで彩られているものの、この時代における人間の生き方に迫ろうとしている作品なのでしょう。「村上春樹さん的」な匂いも感じます。ちなみに著者は、ル=カレの息子さんだそうです。

2015/8