りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スリーピング・ブッダ(早見和真)

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「若き僧侶の修行物語」というので、映画「ファンシイダンス」をイメージしていましたが、後半になって大きな展開を見せてくれた作品でした。

事故死した長兄に代わって北陸の古寺を継ぐ決意をしたものの、僧侶となることの意義を自問し続けている小平広也。バンドでプロを目指すも挫折し、「安定」を求めて仏門を叩いた水原隆春。「同日」として大本山の寺院に上山した対照的な2人が、厳しい修行を通じてさまざまな現実に直面するのが、「彼岸」と名付けられた第一部。修行、世襲、縁故、苛め・・俗世とは隔離されているとはいえ、ここもまた、閉鎖的なコミュニティにすぎませんでした。

しかし、修行を終えて巷間の僧となってからの日々を描く第2部「此岸」の展開は、よりショッキングでした。広也は、北陸の地震で父を亡くし、被害者救済に奔走したあげく古寺を潰してしまいます、一方の隆春は、養子を迎えた寺院から、体よく追い出されてしまいます。全てを失って再開した2人は、東北の破れ寺にたどりついて、理想の宗教を目指すのですが・・。

そもそも、現代日本における仏教のあり方自体が、難しい問題なのです。少子高齢化と檀家の減少が進行するなかで、一方には「財テク宗教法人」が、もう一方にはカルトやスピリチュアルなどの「新興宗教」があるのですから。

いい意味で意表を衝かれた作品でした。「真摯に迷う者」と「救いを求める者」が織り成す、ヒューマンなビルドゥングス・ロマン小説です。「青春パンク小説」という紹介は、ちょっと違うように思います。

2015/8