りぼんの読書ノート

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水軍遙かなり(加藤廣)

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和田竜さんが村上海賊の娘で描いた村上水軍のライバルといったら、九鬼水軍。信長の発案による「鉄甲船」を建造して、毛利水軍を撃破した立役者として名高い志摩水軍の頭領です。信長、秀吉、家康に仕えた九鬼嘉隆、守隆親子が主人公。

信長の棺で「本能寺の変」に新解釈を試みた著者が本書で仕掛けた「謎解き」は3つ。信長との関係では、毛利水軍との決戦に「本当に鉄甲船を用意できたのか」。秀吉との関係では、「文禄の海戦で朝鮮の亀甲船ごときに苦杯を喫した日本水軍が、慶長の海戦ではなぜ苦もなく勝利できたのか」。家康との関係では、「なぜ彼が駿府を隠居地として選んだのか」。

はじめの2つの謎解きは論理的であり、説得力を感じます。ただし3つめの謎の解釈は、牽強付会かもしれませんね。家康が、山田長政と九鬼守隆を組み合わせたアジア戦略を目論んでいたとすると、魅力的ではあるものの、人物解釈も歴史解釈も大きく変わってしまいます。

ストーリー的には、関が原の戦いがクライマックス。東軍についた息子・守隆と、西軍についた父・嘉隆の関係は、やはり両軍に分かれた真田家のケースよりも劇的です。しかし小説的に優れているのは、個々の海戦の描写ですね。北条家の風魔党が異形の容貌と竜骨船を有する異人の水軍であって、九鬼水軍と死闘を繰り広げたというのは面白すぎます。

武将として名高いのは父・嘉隆のほうですが、主人公を息子・守隆としたことも成功しています。青年期に信長の薫陶を受けた守隆が、晩年の家康と夢を語り合うという巡り会わせが絶妙なのです。

2014/9