りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014/4 小説フランス革命(佐藤賢一)

構想を抱いてから10年。第1巻の刊行からも6年。バスティーユ襲撃前夜からロベスピエール処刑までを描いた全12巻の壮大なシリーズがついに完結しました。佐藤賢一さんの『小説フランス革命』です。革命の理想が現実と乖離していく過程を、複数の視点から丹念に描いたシリーズは、塩野七海さんの『ローマ人の物語』にも比肩しえる作品と思います。

例によって自伝的な変奏曲の一作であるアーヴィングさんの新作は、新たな視点を持ち込んでくれたものの、少々パンチに欠ける気がしました。パターンに慣れてしまったこともあるのでしょう。

1.小説フランス革命12 革命の終焉(佐藤賢一)
全12巻シリーズの最終巻では、ジャコバン派の独裁政治が「テルミドールのクーデタで覆される「革命の終焉」までが描かれます。「当初は爽快であったロベスピエールの演説が、ある時点から不快に感じられるようになった」という著者の、革命の変質点を探る推理が冴え渡ります。ミラボー、デムーラン、マラー、ダントンら、革命の担い手たちを身近に感じるようになれるだけでも、このシリーズを読む価値がありますね。

2.村上海賊の娘(和田竜)
毛利・村上水軍が織田水軍を破った「木津川口海戦」を小説化するに際して、著者は魅力的な人物を持ち出してきました。主人公の名は村上景(きょう)。能島村上家の姫君です。戦好きで、男勝りで、現代的な美女ながら、当時の感覚では醜女でしかない姫君が、家を守ることしか考えない男たちの中で光り輝きます。今年の本屋大賞受賞作。

3.聖なる怠け者の冒険(森見登美彦)
祇園祭宵山の夜を舞台に繰り広げられる冒険譚は、『宵山万華鏡』の不思議なテイストに『有頂天家族』のタヌキを織り込んで、『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』のエッセンスも取り込んだ、著者の世界観をテンコ盛りにしたような作品です。怪人「ぽんぽこ仮面」や黒髪の乙女に右往左往させられる主人公は、「怠け者が怠け者のままで冒険する」という矛盾を克服できたのでしょうか。



2014/4/29