りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

俺と師匠とブルーボーイとストリッパー(桜木紫乃)

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まさか1975年の釧路の物語が、我が家の近所で終わるとは思いませんでした。「ピンク色の施設」と書かれた建物の外壁の色を、自宅の窓から確認できるような場所なのです。

 

キャバレーで働く20歳の章介は、博打に溺れていた父親が死んでも、父親の遺骨を捨てるように置いていった母親が出奔しても、感情が動きませんでした。彼にとっては、父親も母親もとっくに家族とは思えない存在だったのです。そんな彼が年末年始のショーに出演する3人のタレントたちと、キャバレーの寮で同居することになってしまいました。華やかな売り文句とは程遠いどん底タレントたちは、ホテル代を節約したおんです。その3人は失敗をウリにする中年手品師、オカマのシャンソン歌手、年齢不詳のストリッパー。

 

はじめは鬱陶しかった同居生活が、次第に心地よくなっていきます。それぞれに苦労してきた3人は、人生の機微をわきまえており、まだ若い章介のことを気にかけてくれたのです。笑いや温かさに満ちた生活をはじめて経験した章介は、彼らのことを疑似家族とまで思うようになるのですが、しょせん出演者たちは浮草暮らし。やがて到来する別れの日に、章介は何を思うのでしょう。

 

本書は著者が大竹まことさんのラジオ番組にゲスト出演した際に、19歳の大竹さんが釧路のキャバレーい営業に行ったという思い出話から生まれたとのこと。もちろん内容は全てフィクションですが、貧乏とか苦労を深刻なものとして捉えない「人生賛歌」として描かれたこそ、章介の成長が理解できる。そんな作品です。

 

2021/12