りぼんの読書ノート

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82年生まれ、キム・ジヨン(チョ・ナムジュ)

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東京オリンピックで金メダルを取った韓国のアーチェリー女子選手が、ショートカットのせいで「フェミニスト」と「中傷」されたということです。韓国で起こっている「フェミニストとアンチ・フェミニストの対立」の激しさを思い知らされる事件でしたが、そのきっかけとなったのが本書です。アメリカで「me too」運動が燃え上がる1年前に出版された作品です。

 

本書の「現在」が2016年ですから、1982年生まれのキム・ジヨンは33~34歳。専業主婦で一児の母である彼女が、ある日突然、精神に変調をきたすところから物語が始まります。そして精神科医の前で克明に語られた、誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児という彼女の「平凡な」人生の中から、韓国の女性が出会う困難や差別が浮かび上がってくるのです。

 

「平凡」という点がポイントです。キム・ジヨンよりも大変な苦労をした方々も多いでしょうが、普通の女性の普通の苦労が、幅広い層の読者の共感を得たということなのでしょう。なお「キム・ジヨン」という主人公の名前も、1982年生まれの女児の中で一番多い名前を選んでつけられたとのこと。

 

キム・ジヨンの苦労の詳細について、ここで触れる必要もないでしょう。そのほとんどが、現在の日本でも繰り返されていることなのですから。ただ韓国における「アンチ・フェミ」の激しさは、男性に限定された兵役義務との関連もあるのでしょうか。日本では考えにくい現象であるように思えます。もちろん本書は、多くの進歩的な男性たちの共感も得ています。そうでなければ、ここまで大ヒットすることはなかったでしょう。男性にこそ読んで欲しい作品です。

 

ところで本書の中で最も印象的な人物は、キム・ジヨンの母であるオ・ミスクでした。女性には進学する機会も与えられないのが普通であった時代に育ち、娘たちよりも厳しい差別に直面し続けながら、頼りない父親に代わって家計を支え、娘たちに教育を受けさせるべく奮闘する母親の逞しさは感動的なほど。彼女たちの世代の奮闘が、表面的とはいえ社会的な平等をもたらしてきたことは、1986年に男女雇用機会均等法を成立させた日本でも同様です。時代は少しずつでも前進している・・と思いたいものです。たとえタリバーン政権が復活するような世界においても。

 

2021/11