りぼんの読書ノート

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炎上する君(西加奈子)

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いつでも誰もが何かと戦っていて、疲れ果ててしまうような現代社会。本書は、そんな人々に贈られた「大人の童話集」なのでしょう。

 

「太陽の上」

「太陽」という名の中華料理店の階上にあるアパートに住んでいる女性は、3年間も部屋の外に出ていません。彼女に階段を下りさせたのは、階下に住む中華料理店の大将と女将さんの愛情だったのでしょう。

 

「空を待つ」

空の写真を待ち受けにしている携帯を拾った女性作家は、まるで彼女を励ますような謎めいたメッセージを受け取り続けます。それは彼女が人を信じて愛せた頃の、彼女の携帯だったのでしょうか。

 

「甘い果実」

山崎ナオコーラの華々しいデビューに嫉妬する、同年代の作家志望の女性。しかし彼女は意外な本性を見せたナオコーラに恋してしまいます。そしてナオコーラに宛てた長いラブレターで彼女はデビューするのです。それはマンゴーが起こした奇跡だったのでしょうか。

 

「炎上する君」

まさか「炎上」が本当に燃えていることだとは思いませんでしたが、やはり何かの比喩なのでしょうか。社会と戦い続けてきた2人の親友が、まさか炎上する男に対する恋という戦闘に陥って、自分たちも炎上してしまうとは。この作品を読んで中島みゆきさんの「ファイト!」を思い出しました。

 

「トロフィーワイフ」

かつてトロフィーワイフだったという家猫のような祖母と、野良猫生活に憧れる孫娘の会話はかみ合っていません。しかしエンディングは謎めいていて不気味なのです。

 

「私のお尻」

実体を越える概念となるほどに美しい身体のパーツのことを、人は憎むようになってしまうのでしょうか。まさか概念としての太宰治が、まだ生きているとは思いませんでした

 

「舟の街」

徹底的に参ってしまった人が訪れるという舟の街。彼女はどうやってそこを訪れ、どうやって現実世界に戻ってきたのでしょう。「小さくても意思のある、しかし波に身を任せることのできる、立派な舟のような存在」が魅力的です。

 

「ある風船の落下」

溜め込んだストレスが身体を膨らまし、ついには飛翔させるに至る風船病。空から風船たちが手を取り合って落下してくる光景を見たいものです。

 

2021/11