りぼんの読書ノート

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一葉舟(領家高子)

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たけくらべ樋口一葉の文章に魅了され、彼女の文筆活動がピークに達した「奇跡の14ヶ月」の秘密に挑んだ本書を手に取って見ました。一葉の代表作はすべて、24歳と6ヶ月で亡くなる直前の14ヶ月間に書かれているんですね。

本書は、一葉(夏子)と妹(邦子)の視点から書かれています。若い女性の身ながら没落士族家庭の戸主として作家「一葉」への道をひたすら進んでいく姉と、姉の中にある「夏子と一葉との相克」を冷静に観察うぃ、姉の心中を思い遣る妹。

もちろん魅力的なのは一葉自らの視点のほう。作家として身を立てるために、彼女に思いを寄せた小説の師・半井桃水を振り切り、若手作家たちをサロンに集め、挑戦的な批評家・斉藤緑雨の視線に身をさらす。不幸な女性を描いては、不幸の先にある冷笑を、さらにその先を、最後まで暖かい視点で描こうとする一葉。

「現実を昇華して永遠のものにした」彼女の筆が生み出した「たけくらべ」の少女・美登利も、「にごりえ」の酌婦・お力も、誰もが一葉の分身です。未完に終わった「裏紫」の、男を手玉にとってなお男から愛されるお津もまた、一葉が目指した新しい女性像だったのでしょう。明治という近代化の大海原に浮かんだ「一葉舟(ひとはぶね)」は、漕ぎ手を変えながらも「現代」にたどり着いているのです。

2013/7