りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

空の拳(角田光代)

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日経新聞に連載されていた時から気になっていた小説です。一気読みできない連載小説は読まないことにしているのですが、時々断片的に読んでしまうことがあるのです。

出版社で文芸誌を希望しながら、なんと廃刊間際のボクシング雑誌に移動させられてしまった若手編集者の空也が、ボクシングの魅力に惹き込まれていきます。きっかけは「とりあえず体験してみよう」と入門したジムで出会った、同い年のボクサー・立花の華のあるファイトぶりでした。

衝動に突き動かされて立花の暗い過去を書いた署名記事は一部読者の反響を呼び、折りしも新人王のタイトルを取った立花の人気は上昇。しかし、経歴詐称が明るみに出されて立花も空也もバッシングを受けることになり・・。

本書のテーマは、「どうしてさしたる名誉も金も得られないスポーツに熱狂する人々がいるのか」ということですね。その答えは「自ら渦中に飲み込まれてみるまではわからない」ということなのでしょうが、格闘技に限らずスポーツの迫力は、経歴詐称バッシングなんて小さなことは弾き飛ばしてしまうはず。それこそ「世界に挑戦する頃にはみんな忘れてるさ」ですね。たとえ「みんなが正義の味方になって、いじめる快感を覚えた」ような世の中になったとしても。

酔うとオネエ言葉になるヘタラキャラの空也空也と同期入門ながら「イケメン正統派」として地道に勝ちあがる坂本、先輩ながらボクサー生活をギブアップした中神、ボクシング雑誌の燃える編集長、ちょい偏屈なトレーナーなどの人物や絡みが見事なのは、さすが熟練の著者の作品。もちろん、ボクシングシーンのリアルで躍動感に富んだ描写も素晴らしい。

女流作家のスポーツ小説としては、三浦しをんの『風が強く吹いている』、佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』、近藤史恵の『サクリファイス』、碧野圭『銀盤のトレース』、あさのあつこバッテリー』などがありますが、それぞれ著者の特徴が出ていますね。相性のいいテーマなのかもしれません。

2013/7