りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012/9 背教者ユリアヌス(辻邦生)

前月の『カラマーゾフの兄弟』に引き続いて、ドストエフスキーの『罪と罰』を再読しましたが、「世界の名作」の上位に名を連ねる作品ですから、やはり別格扱いが妥当というものでしょう。

久しぶりに初読の優れた作品が多くて今月のランキングは迷いましたが、学生時代に大きな感銘を受けた『背教者ユリアヌス』が今でも色褪せていなかったことにあらためて感動を覚えましたので、再読ですがこれを1位にあげようと思います。
1.背教者ユリアヌス(辻邦生)
実在の人物で小説化された主人公に魅力を感じたのは、司馬遼太郎さんの『龍馬がいく』と本書です。実際がどうだったのかはわかりませんが、2人ともあまりにもチャーミングに描かれているんですね。コンスタンティヌス大帝の甥として生まれながら、数奇な運命をたどって皇帝に即位した後に古代からの信仰を一時的に復活させた人物が、純粋さを失うことなくひたむきに理想を追い続けた「永遠の青年」として再現されました。

2.プラハ冗談党レポート(ヤロスラフ・ハシェク)
『兵士シュヴェイクの冒険』で知られる著者は、1911年のハプスブルグ支配下プラハで政党を結成し、政治活動を行っていたことがあるそうです。全ての政党政治を茶番として笑い飛ばす「アナキスト集団」の活動をおもしろおかしく記した本書は、カフカの街「プラハ」のイメージを覆してしまうほどに陽気です。抑圧の日々を馬鹿騒ぎに変えて笑いのめしてしまうなんて、並の精神力でできることではありません。

3.ヴィットーリオ広場のエレベーターをめぐる文明の衝突(アマーラ・ラクース)
ローマ駅裏の広場に面したアパートで起きた殺人事件の捜査は、いつしか「イタリア人論、移民論」へと主題を移していきます。アパートの居住者や訪問者が出合うエレベーターという装置・空間を舞台にして、多国籍・多民族国家となりつつある現代イタリア社会におけるアイデンティティの問題を鋭く考察した作品となっていくのです。このような潮流はイタリアだけのことではありませんね。




2012/9/30