りぼんの読書ノート

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「グレート・ギャツビー」を追え(ジョン・グリシャム)

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『法律事務所』や『ペリカン文書』で華々しくデビューしたグリシャムの作品をあまり読まなくなったのは、『ペインテッド・ハウス』を読んでからでしょうか。つまらなかったからではなく、自伝的要素を多く含む少年の物語が素晴らしすぎて、明らかにフィクションである法廷小説に戻れなかったのです。

 

しかし本書は、村上春樹さんの翻訳ということで手に取ってみました。村上さんはポーランドで英語の本を物色しているときに「フィッツジェラルドの原稿強奪事件に挑むスランプ中の新進女性作家」という要約を見て本書を読み、翻訳するほどに気に入ってしまったそうです。

 

プリンストン大学の地下金庫から原稿を盗み出す方法も面白かったのですが、この部分はプロローグ。物語は、保険会社の調査員によって見出されたうら若き女性作家マーサが、フロリダの魅力的な書店主ブルースに接近していくところから始まります。ブルースの裏の顔は稀覯本の収集家であり、盗み出された原稿は彼の手元にあるのではないかというのです。

 

マーサーの視点から謎多きブルースの素顔が次第に明らかになっていく過程が、本書の読ませどころですね。その巧みさは、村上さんが「ニックの視点によってギャツビーの謎が解明されていく過程」になぞらえているほど。マーサを受け入れてくれた個性的で魅力あふれるフロリダの作家たちも、ブルースの尽力でコミュニティを維持しているわけですから、その点もギャツビー的。しかし本書はブルースの凋落で終わる物語ではないということだけ伝えておきましょう。村上さんが気に入ったことも頷ける作品でした。

 

2021/11