1.息吹(テッド・チャン)
第1短編集『あなたの人生の物語』以来17年ぶりの第2短編集というから、寡作にもほどがあります。しかし2年に1編という短編発表にもかかわらず、彼の作品は多くのSF賞を受賞し、映画化されてヒットし、オバマ前大統領から推薦されるほどの人気を博しているのです。扱われているテーマは多彩ですが、生命の多様性に思いを馳せた作品に傑作が多かったように思います。
2.82年生まれ、キム・ジヨン(チョ・ナムジュ)
韓国で起こっている「フェミニストとアンチ・フェミニストの対立」の端緒となった作品です。本書の「現在」が2016年ですから、1982年生まれのキム・ジヨンは33~34歳。専業主婦で一児の母である彼女が、ある日突然、精神に変調をきたすところから物語が始まります。そして精神科医の前で克明に語られた、誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児という彼女の「平凡な」人生の中から、韓国の女性が出会う困難や差別が浮かび上がってくるのです。
3.「グレート・ギャツビー」を追え(ジョン・グリシャム)
村上春樹さんがグリシャムを翻訳するのは初めてでしょうか。プリンストン大学の地下金庫から盗み出されたフィッツジェラルドの原稿の行方を捜索する保険会社の調査員が目を付けたのは、若くしてデビューしたのに第2作めを書けないでいる女性作家でした。彼女は稀覯本の収集家でもある、フロリダの魅力的な書店主に接近していくのですが・・。2人の関係がギャツビーとニックを思わせてくれる作品でした。
【次点】
・姉の島(村田喜代子)
・恋するアダム(イアン・マキューアン)
・春の宵(クォン・ヨソン)
【その他今月読んだ本】
・紅霞後宮物語 第12幕(雪村花菜)
・四隣人の食卓(ク・ビョンモ)
・とりあえずウミガメのスープを仕込もう。(宮下奈都)
・炎上する君(西加奈子)
・サキの忘れ物(津村記久子)
・現想と幻実(ル=グィン)
・偽姉妹(山崎ナオコーラ)
・優しい噓(キム・リョリョン)
・もらい泣き(冲方丁)
・地上で僕らはつかの間きらめく(オーシャン・ヴオン)
・鞠子はすてきな役立たず(山崎ナオコーラ)
・Yの木(辻原登)
・大西洋の海草のように(ファトゥ・ディオム)
2021/11/30