りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

いなごの日/クール・ミリオン(ナサニエル・ウエスト)

イメージ 1

大恐慌時代のアメリカ文学者では怒りの葡萄などを著したスタインベックが有名ですが、本書の著者もそのひとりです。ただし正統派のスタイベックに対して、グロテスクなブラックユーモアが勝りすぎる作風のせいか、知名度は低いのです。今回の「村上柴田堂翻訳シリーズ」に入らなかったら、手に取ることがなかった作家でしょう。

表題作の「いなごの日」は、駆け出しの画家であり、ハリウッドで美術関係の半端仕事をしている青年トッドが主人公。虚構の街で暮らしながら、ハリウッドの夢の影で貧しく生きる人々を描く「燃えるロサンゼルス」という作品に取り組んでいるトッドですが、まるで彼の作品が現実化したかのような、暴徒と化した群衆に飲み込まれてしまう物語。女性を巡るいざこざや、「カリフォルニアへ死にに来た人々」のエピソードは冗長なので、短編にしたほうが成功した作品だと思います。

「クール・ミリオン」は、「アメリカン・ドリーム」を夢見てニューヨークへと旅立った少年レムが全てを失うに至る、強烈なブラックユーモアです。「はじめは歯、次に目、指、頭皮、脚・・」、そして最後には自らの命まで落としてしまうレムの生涯は、「アメリカン・ドリームを徹底して暗転させた」ものにほかなりません。笑うべき物語ですが、グロすぎます。

他には、狂気を装った男の悲劇を描いた「ペテン師」と、人生に失敗した男が転落のきっかけが野球であったことをつぶやく'''「ウエスタンユニオン・ボーイ」が収録されています。

2017/10