りぼんの読書ノート

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うたかたの日々(ボリス・ヴィアン)

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「小さなバラ色の雲が空から降りて来て、シナモン・シュガーの香りで二人を包みこむ」・・そんな幸福な出会いを果たした、夢多き青年コランと美しくも繊細な少女クロエの物語が、途中から一変してしまいます。

クロエは「肺の中で睡蓮の花が咲く」という奇病に取り憑かれ、コランは財産を失って「不幸の知らせを伝えて歩く配達人」の仕事を始めるのです。やがて、不幸の配達リストに自分の名前を発見することになるとも知らずに・・。

本書に登場するもう一組のカップルである、シックとアリーズの運命も悲惨です。哲学者パルトル(サルトルのパロディですね)に取り憑かれたシックを取り戻すため、アリーズは「心臓抜き」なる凶器を使ってパルトルを殺害し、彼の書籍を扱っている書店を焼いて回ることになるのですから。

ファンタジーのように語られる物語でありながら、テーマは残酷です。一方で恋人たちの純粋さは、周囲の人々に対しては暴力的になるというグロテスクな一面もあるのです。しかし小川洋子さんの解説にあるように、著者は「現実を歪めようとしたのではなく、独特な方法ではあるものの、ありのままに受け入れようとした」作品なのでしょう。その全てを象徴しているものが「肺に咲く睡蓮」のようです。

2017/10