りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

待ち望まれし者 上(キャスリン・マゴーワン)

f:id:wakiabc:20200321174952j:plain

ダ・ヴィンチ・コード』で一躍脚光を浴びた「マグダラのマリア」についての新解釈、というよりも著者の信念が綴られた作品です。フェミニストである著者は「男たちによって書かれた歴史書では女性は抹殺されている。無視できない場合には悪女として描かれている」というのです。 

 

マリー・アントワネット、ルクレツィア・ボルジア、ボアディケアなどの女性について調べ上げた著者は、女性史の原点ともいうべきマグダラのマリアにたどり着きました。彼女はなぜ、誰かの妻や娘としてではなく、男性との関係抜きでひとりの女性として記述されたのでしょう。新約聖書の時代では、きわめて稀有な事例だそうです。 

 

そんな思想が背景にあるのですが、内容は抜群におもしろい。主人公は、著者自身をモデルにしたとおぼしきノンフィクション作家のモリーン。彼女が取材のために向ったイスラエルで物語が始まります。イエスが十字架を担いでゴルゴダの丘まで昇った「悲しみの道」で、突然幻視に襲われたモリーンは、そこに現れる高貴な女性がマグダラのマリアに違いないと確信します。ではマリアは、いったい何を彼女に訴えているのでしょう。 

 

さらにモリーンは、マグダラのマリア信仰が盛んな南仏で、奇妙な予言の存在ボアディケアを知らされます。マグダラのマリアこそがイエスの妻であり、2人の子孫が世界中に存在していると。そして子孫たちの中で「待ち望まれた者」が、マグダラのマリアが書き遺した「福音書」を発見することができるのだと。モリーンははたして「待ち望まれた者」なのでしょうか。 

 

しかし彼女たちには巨大な敵もいたのです。それは「洗礼者ヨハネ」の子孫たち。男性至上主義者であったヨハネの息子こそが、マグダラのマリアの記録を消し去った張本人だというのです。そして2人の間には、特別な因縁もあったのです。 

 

ダ・ヴィンチ・コード』と似た部分も多いのですが、本書はさらに先を行きます。ついに発見された「マグダラのマリア福音書」の内容が、下巻で紹介されるのですから。そしてそれこそが著者が書きたかったことなのでしょう。 

 

2020/4