りぼんの読書ノート

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優しい噓(キム・リョリョン)

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書肆侃侃房が出版している「韓国女性文学シリーズ」の第2作です。韓国で80万部のベストセラーとなり、映画化もされています。本書が扱っているのは、日本でも深刻な女子中学生のイジメ問題。

 

物語は、中学1年生のチョンジが、赤い糸で編んだ長い紐で首をくくって自殺したところから始まります。9年前に事故で父親を亡くしていたチョンジは、母と姉との3人家族。貧しいながらも家族仲はよく、口数は少ないが明るく笑顔を絶やさない優しい心の持ち主であるチョンジは、なぜ自殺という選択をしてしまったのでしょう。

 

姉のマンジは、妹の苦悩に気付かなかった自責の念から、自殺の真相を調べ始めます。彼女が見出したのは、妹の友人だと思っていたファヨンによる陰湿なイジメであり、それを見ないふりをしていた同級生のミラたちの存在でした。しかしそれだけではありません。編み物が得意であった妹は、毛糸玉に封印した5つのメッセージを5人の人物に残していたのです。母には謝罪、姉には感謝、ファヨンとミラには赦し。最後のひとつが誰に贈られ、何が書いてあるのかは明らかにされないままに本書は終わります。しかしそこはもう重要ではないのかもしれません。チョンジの死によってはじめて罪を意識して、チョンジの後を追おうとしたファヨンは、マンジによって助け出されたのですから。

 

著者も中学生の頃にひどいイジメにあって死を意識したこともあったそうです。本書を翻訳したキム・ナヒョンさんも同じ経験があり、たったひとりの親友の支えによって救われたとのこと。友人関係で悩む子供たちをはげまし、応援する気持ちに満ちた作品であり、ここには国境などありません。

 

2021/11