りぼんの読書ノート

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オリンピックがやってきた(堀川アサコ)

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「1964年北国の家族の物語」と副題がつけられた本書は、まるで「青森版・三丁目の夕日」ですね。1964年に青森で生まれた著者は、「自分が生まれた年の物語を書きたかった」と述べています。

連作短編集の形式を取る群像劇ですが、中心になるのは3世代で暮らす前田家の長女・民子でしょう。小学4年生の少女の家族は、祖父、祖母のツナ、父親の昭和、母親の久仁子、弟の公平、未婚の叔父の昭次の7人。戦死した長兄の幽霊事件や、嫁姑のバトルや、叔父の拙い恋愛や、警察官の父親が捜査する空き巣事件などがありながらも、オリンピックを前に購入したカラーテレビが一家を結び付けています。

まだ戦争の影響も色濃く残っていた時代、民子の同級生の間でも貧富の差がはっきりと残っています。貧しさゆえに同級生から苛められているるみ子をかばったことから、友達になって欲しいと懇願され、はじめは嫌がっていた民子が次第に友情を感じていくエピソードは出色です。親孝行の長男を自慢する、ツナの友人の老婆の悲しい嘘にも泣けました。

タロットカードを操って「お屋敷の魔女」と呼ばれている亡命ロシア人らしき「奥様」と、同居しているトキとの不思議な関係もいいですね。戦後すぐに女衒に売られそうになったところを奥様に救われて以来、ずっと同居し続けているトキは、家事全般の達人であり、やはり町民たちから「魔女の一味」と思われているようです。彼女たちも含めて、町全体が互いに知り合いであった時代の物語に、青森弁がいい味をプラスしています。

ちょっと残念だったのは、オリンピック開会式の日で物語が終わってしまった点。タイトルの割にオリンピック感が乏しかったのです。せっかく魔女を登場させたのだから、バレーボールの「東洋の魔女」と関わるようなエピソードも欲しかったのですが。

2018/6