1995年に起こった阪神淡路大震災と、直後に起こったオウム真理教のテロ事件は、自然の脅威や人間の無力さを超えて、世界が損なわれつつある危機感を著者に抱かせたのかもしれません。その後に起こった2001年の9.11テロや2011年の東日本大震災は、不穏な予兆が増幅して実現されたことを示しているのでしょうか。全て三人称で書かれた、地震をめぐる連作小説集です。
「UFOが釧路に降りる」
地震から5日間テレビを見続けた妻は失踪。郵便で離婚届を受け取った夫は、友人から、釧路に向かうよう依頼されます。彼がそこで聞いたのは、UFOを目撃した後に失踪した女性の話でした。その女性と妻の間に関連はあるのでしょうか。
「アイロンのある風景」
流木で焚火を熾す男女が語るテーマは「死」を巡っているようです。「焚火」の小説を書いたジャック・ロンドンの自殺願望、空虚な部屋を書いた絵、そして流木を拾う生活をしている中年男性は、神戸に妻子を残しているのです。
完璧な避妊をしたのに妊娠してしまった母親から生まれた青年は、神の子なのでしょうか。青年が出会った追いかけた男は、彼の父親なのでしょうか。そして青年は何故踊り出したのでしょうか。謎めいた物語は、余韻を残して終わります。
「タイランド」
神戸に住む男が地震で死んでいれば良いと願う女性医師は、静養先のタイの田舎で不思議な予言を聞かされます。身体の中で石となった憎悪は、どうすれば取り除けるのでしょう。生きることと死ぬことの意味を考えさせられる作品です。
「かえるくん、東京を救う」
これから東京を襲う大地震を未然に食い止めると決意したかえるくんが協力を求めたのは、片桐という普通の青年でした。彼が勤める信用金庫の地下で、強敵のみみずくんが暴れるというのですが・・。。村上春樹作品における「地下の存在」がストレートに登場する作品です。
「蜂蜜パイ」
小説化の淳平は『東京奇譚集』にも登場する人物でしょうか。淳平は、彼の親友と結婚しながら離婚した女性を愛し続けていたようです。神戸で起こった地震は、彼の背中を押してくれるのでしょうか。比較的ストレートな作品です。
2022/9