1990年のペルー大統領選挙に無党派市民運動の指導者として出馬したバルガス=リョサは、混血者や貧困層を支持基盤とするフジモリに敗れています。しかし後に独裁的な統治を批判されたフジモリは大統領を辞職し、人権侵害罪などで有罪判決を受けて収監されています。彼の失脚のきっかけとなったのは、腹心であった国家情報局顧問ブラディミロ・モンテシノスの汚職映像の公開でした。
本書はフィクションですが、フジモリ政権下で強権を振るったドクトルなる人物に戴して一介の女性ジャーナリストが反旗を翻した「歴史物語」としても読める作品となっています。
タイトルのシンコ・エスキーナス街とは、リマの貧民街。富豪の乱交パーティを隠し取った写真を用いてユスリを働こうとしたゴシップジャーナリストのガロが、そこで殺害されるという事件が発生。容疑者として富豪が逮捕されますがすぐに釈放され、ガロに恨みを抱いていた痴呆老人が真犯人とされてしまいます。
しかし事件の真相は、ドクトルのために働いていたガロが勝手なふるまいをして粛清されたというものでした。貧民街に育ち、ガロによって見出されたことから彼を崇拝していた若い女性のラ・レタキータは、ドクトルから呼び出され、彼の跡を継ぐようにと指示されるのですが・・。
ドクトルが失脚に至る過程は著者独特の迫力ある文体で脚色されていますが、ドクトルが中心になって行ってきたマスコミに対する言論統制、大衆紙を操って野党議員のイメージダウンを図る策謀、さらには明らかな犯罪行為を行っておきながらテロリストの仕業として処理する人権抑圧などは、ほとんど事実のようです。本書は、著者が母国に民主主義が根付くことを願って書いた著作なのでしょう。
2020/3