りぼんの読書ノート

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イースタリーのエレジー(ペティナ・ガッパ)

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アフリカ南部の国、ジンバブエに生きる人々の日常生活を描いた短編集です。かつてローデシアと呼ばれたアパルトヘイトの国は1980年に独立したものの、その後30年も居座り続ける大統領の悪政によって、天文学的なハイパーインフレエイズの蔓延による荒廃が進行中。そんな国で人々はどう生きているのでしょう。

大統領側近として悪政の一端を担った夫を国葬で送る英国人妻の諦観。身内や親族を優遇して一族の蓄財に腐心する黒人政権の腐敗。日々の不満を欺瞞と妥協によってやり過ごす都市ブルジョワ層。失恋の痛手のあまりに自殺の衝動に駆られて精神病院に入院させられてしまった女子大生。海外で仕事や学業に失敗した事実を隠し続けて、自らの失望と自国の人々をごまかそうとする人々。赤ん坊を熱望する女と困惑する夫。人知れず身ごもった流れ者の女。ゲリラの村からやってきた明るく溌刺としたメイドの絶望的な未来・・。

救いのない物語が次々と語られていきます。表題作の「イースタリーのエレジー」は、首都ハラレの都市浄化計画によって家と土地を奪われた人々が暮らす貧民街を舞台に、権力者たちの専横によって貧民街が丸ごと消滅させられる危機に直面して不安に怯える人々を描いた物語。闘う気力など、もう誰にも残っていません。

それでも不運や苦痛をなんとかやり過ごし、今日よりは明日が良い日であって欲しいと願う気持ちは世界共通です。わずかに残されたユーモアの感覚に、幾分かの救いを感じます。
 
2013/10