りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

善人長屋(西條奈加)

イメージ 1

善い人ばかりが住むという千七長屋、通称「善人長屋」の住人は、裏家業を持つ悪党ばかり。差配の儀右衛門は盗品を捌く質屋。髪結い床の半造は情報屋。、季節物を売り歩く唐吉、文吉兄弟は美人局。小間物商いの安太郎は巾着切り。浪人の梶新九郎は偽証文師。人の良さそうな菊松とお竹の老夫婦は騙し屋など、小悪党のオンパレード。

そこに住みはじめた錠前職人の加助は皆から錠前師と思われていたのですが、実はそれが勘違いで、人を信じて疑わない全くの善人。困った人を見捨てておけない加助の持ち込む面倒の数々を、長屋の住人たちは裏家業で解決していくはめに陥ります。このままでは、みんな「善い人」になってしまう! しかし加助には、悲しい過去があったのでした。

物語は、儀右衛門の娘であるお縫の視点で語られていきます。彼女自身は善人でも悪人でもなく、「できれば皆に善人になって欲しい」と願いながら、それは叶わないことが判っている女性。善人で居続けるには悲しみに耐える力が、悪人の道を選ぶためには業に耐える力が必要なんですね。

途中まで「仕掛け人」のような物語は、加助が火事で亡くなったはずの妻子を町で見かけたことから急展開。長屋の住人たちは巨悪との対決へと引き込まれていくのですが、加助を「長屋の救世主」とまで思いたがっていたお縫の思いの向かう先は?

気持ちのいい作品でした。続編も出たとのことです。そちらも読んでみましょう。

2013/10