りぼんの読書ノート

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神は死んだ(ロン・カリー・ジュニア)

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極めてショッキングなタイトルは、あまりにも有名なニーチェの言葉ですが、本書の内容は「タイトルそのまま」。ディンカ族の若い女に姿を変えて南スーダンの難民キャンプに降臨した神は、冒頭の短編であっさり死んでしまうのです。人間たちの蛮行に対して見守ることしかできない神の、なんと無力なこと。カラマーゾフの兄弟の「大審問官」を思わせますが、本編はそこから始まります。

神が死んだことが知れ渡った世界は大混乱に陥ります。信仰の対象を喪った聖職者は死を選び、ゲームめいた集団自殺が横行し、神の屍骸を食べて神性を帯びた犬が登場し、子供に神性を見出そうとする歪んだ社会が現われ、新興思想勢力が人類を二分して血で血を洗う思想戦争が進行していくのです。

「大審問官」の語り手イワンが言ったように「神がいなければすべてが許される」のでしょうか。完全に架空の世界が描かれており、特にラストの数編は「絶望的な近未来小説」のようですが、ひとつひとつの現象は、今すでに起こっていることのように思えてなりません。ポップな語り口で紡がれた連作短編集ですが、テーマは重く、現代的です。

2013/10