りぼんの読書ノート

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フランス革命の肖像(佐藤賢一)

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フランス革命の主人公たちの顔を、どれだけ知っているでしょうか。革命で倒されたルイ十六世やマリー・アントワネットや、革命に幕を引いたナポレオンの肖像画は有名です。革命の主役となったロベスピエール、劇的な暗殺シーンがダヴィッドに描かれたマラー、パリのあちこちに銅像が残るミラボーやダントンあたりまでは、まあ何とかわかります。しかし準主役級の人物となると、とたんにおぼろげになってくるのではないでしょうか。

本書は、フランス革命に登場する人物たちの肖像画およそ80点を取り上げ、彼らの人物評を軽妙な筆致で描いたユニークな一冊です。畢生の大作である小説フランス革命執筆の合間に書かれました。

革命前には偉大な国王のようだったルイ16世の肖像が、革命の進行に伴って滑稽画のようになっていく様子は象徴的です。当初は誰も想像すらしなかった国王の処刑は、この風潮の中で現実のものとなっていったのでしょう。一方でマリー・アントワネットの晩年の肖像画からは若き日の軽薄さは消え去り、知性と深みを感じさせるようになっていきます。「不幸が女王を成長させた」のでしょうか。

ヴァルナーブやシェイエスらのフイアン派が一癖も二癖もありそうなのに、ブリソやペティオンらのジロンド派の顔つきは呑気そうに見えてしまいます。マラー、ダントン、エベールらジャーナリストたちは眼光鋭い。革命直後のカミーユ・デムーランは野心が溢れ出るような顔つきなのに、妻リシュルや子供たちに囲まれた作品からは満足感が漂ってきます。この直後に夫婦ともに処刑されることになるのですが・・。

ロベスピエールサン・ジュストクートンらのジャコバン派は、やはり峻厳な顔つきです。ただ、テルミドールのクーデタを起こし、最後には子飼いのナポレオンによって失脚させられた革命期最後の政治家バラスが好々爺にしか見えないのが残念です。もっとも、激動の時代に幕を引く人物などというものは、そんなものかもしれません。

2014/12