少子高齢化によって年金は破綻し、世代間の対立が激しくなっている近未来の日本では、不老長寿の遺伝子治療薬の開発が進んでいました。こんな薬ができたら、今まで以上に若者の就職口が高齢者に奪われてしまうのですが、ブラック企業を退職したばかりの七川小春には選択肢などありません。この薬への反対勢力をスパイするために、製薬会社に雇われます。実は小春は、9歳の時に受けた遺伝子治療の臨床実験の副作用によって、異常な聴覚の持ち主となっていました。彼女を雇った事業部長は当時の若手研究員であり、小春の秘密を知っていたのです。
物語は、両勢力のトップたちの策謀が交差する中で、むしろ反対勢力に心を惹かれていく小春の葛藤を中心に進んでいきますが、それだけではありません。著者が仕掛けた「因縁」が、物語に深みを与えてくれています。反対勢力の懐刀で超天才の石川千沙、新薬開発の被験者となった宮沢聡子。この3人ともが、9歳の日に同じ病院に居合わせていたんですね。同年代の3人の「協力」がもたらした「解決」に、爽やかさを感じました。現実と同様、少子高齢化の問題そのものが「解決」されるわけではないのですが・・。
2014/12