りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夢は荒れ地を(船戸与一)

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PKOの一環として自衛隊カンボジアに派遣されたのは1992年。もう20年以上前のことになります。2003年に出版された本書は、カンボジアに派遣されたまま消息不明となった元自衛官の越路修介の足跡を追って、元同僚の現役自衛官・楢本辰次がブノンペンに現れるところから始まります。

諸外国と結びついた国内勢力による複雑な内戦と、クメール・ルージュによる大虐殺、さらにはベトナム軍の侵攻という悲惨な歴史から、この国はまだ抜け出してはいません。国内産業が育たない中で、援助にむらがる特権階級。武器回収が進まないことによる犯罪の凶悪化。汚職の横行。学校教育普及の遅れ、そして人身売買。

カンボジアでの取材の際に少女人身売買を目撃して義憤に駆られたという著者は、越路という反人身売買闘争の戦士を生み出しました。独自の資金源を手に入れた越路は、独自に学校建設を進める勢力や、元クメール・ルージュに与えられた辺境の村で政府からの半独立を目指す勢力との共闘を進めるのですが・・。

以前、本書とともに「東南アジア5部作」をなす蝶舞う館河畔に標なくの感想に、「日本人の登場は余計に思える」旨のことを記しましたが、著者にとっては必然なのでしょう。少数民族や人権の抑圧に憤っているのは著者自身であり、主人公たちは著者の分身なのでしょうから。

闘病中とお聞きします。ご快復をお祈りいたします。それと、畢生の大作である満州国演義の完結も!

2015/1