りぼんの読書ノート

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ある晴れた日に、墓じまい(堀川アサコ)

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バツイチ44歳で古書店を経営する正美は、乳がんを患ったことで実家の墓じまいを決心します。母は亡く、小児科医で頑固な父は高齢で、親の期待を裏切って家出した兄も、ダウン症で施設に入所している姉も全くあてにならないのは明白。自分に何かあったら一族は完全に無縁仏になってしまうことを危惧したのです。

 

「可愛い系の食虫植物」と言われるほどに勝気な正美でも、抗がん剤治療を受けながらの墓じまい検討には辛いものがあるようです。しかもその最中に父親が急死して、預金通帳の記録から愛人疑惑が発覚。正美に遺されたのは家の整理にかかる実費のみで、残りは全て姉が入所している施設に寄付するとの遺言はまだしも、遺産相続から外された兄夫婦が警察沙汰を起こすなどして前途多難。もちろんイケメンだけが取り柄なダメ男の元夫などは何の頼りにもなりません。

 

しかし味方は思わぬ所から現れました。元新聞社員で人格者である年上の従業員のヒロコさん。なぜか父親が古書店の力仕事担当として手配してくれていた体力だけが取り柄な引き籠りの青年・昴クン。やはり乳がんに罹ってしまったことから戦友となった、元夫の今彼女のリカさん。そして父親が内緒で書いていた遺作の小説。「私の灰かぶり娘」と題された作品で、父親は娘への愛情を率直に語っていたのです。

 

幻想小説を得意とする著者の作品ですが、最後までリアルでした。現代のお墓事情も理解できるお役立ち小説です。少子高齢化が進む中でこれから、墓じまいは間違いなく問題になってきますね私のところも何とかしないといけないのですが、年老いた母親への遠慮や、滅多に会わない親族との調整が難しいこともあって、何も進んでいないのが実情なのです。

 

2021/7